熊本市「殺処分ゼロ」の取り組み
土曜日に行われた動物愛護管理法改正のシンポジウムは、私にとってはとても興味深いことばかりで、どの方の講義もパネルディスカッションも、たっっっくさんの収穫があったので、とても簡単には報告できないので何回かに分けてご報告します。
その中でも最も感銘を受けたのは、殺処分を限りなくゼロに近づけた熊本市の動物愛護センターの所長さんのお話でした。
熊本市の取り組みは以前から耳にしていましたが、詳しい状況を知らなかったので『殺処分ゼロ』という素晴らしい取り組みを聞いても、正直いろいろとなんだか腑に落ちないものがあって、なんとなく心の中がもやっとしていました。
でも、所長さんの話をお聞きして、それがすとーんと腑に落ちて全て納得することができました。
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その所長さんですが、殺処分を激減させた実力の持ち主なので、さぞかし暑苦しいぐらいの情熱を持った人かと思いきや(笑)、とっても素朴でにこやかで人の良さが体全体からにじみ出ているような方でした。
「いろんなマスコミから取材を受け、皆さん『なぜ殺処分をゼロにしようと考えたのか?』と聞かれます。マスコミとしては(ネタになるような)感動的な話を期待しているようですが、実際には『もうこれ以上、殺したくない。』 と、本当にたったそれだけなんです。」と、冒頭におっしゃっていたのがとても印象的でした。
獣医師でもある所長さんは、熊本市の愛護センターに来る前は動物園で動物の世話をされていたそうです。動物園では動物たちの健康を管理し、病気になる前のサインを見逃すまいと毎日「いかに病気にさせないか」と必死だったのに、愛護センターに来てからは健康そのものである犬や猫を処分しなければならない毎日。
そのあまりの違いに悔しい思いをし、地元の動物愛護団体からは罵声を浴びせられ、『もう殺処分はしたくない。』と、平成14年、協力的だった当事の所長さんと動物推進委員を半年で立ち上げられたそうです。
その後動物愛護団体や獣医師会にも協力を仰ぎ、それだけでなくペットを売る側である動物取扱業者とも連携し、紆余曲折を経て平成21年度は殺処分数を犬1頭、猫6頭(それも、二酸化炭素ガスによる殺処分ではなく、麻酔注射による処分)することに成功されました。(数値はTHEペット法塾主催 『真に動物を守る法律へ』 動物愛護管理法改正のシンポジウムの資料より)
「熊本市は引き取りを拒否する」と言われていますが、それは違う、ということもおっしゃっていました。引き取りを拒否するのではなく、飼い主への返還を促しているそうです。
●どうしても飼えないのならまずは最後まで自分で責任を持って里親を探させる。里親を探す方法を教え、そういう努力をまず飼い主にさせ、それでもどうしても見つからなければ引き取る。
●噛み癖や吠え癖などの問題があって困っているのであれば、プロのドッグトレーナーを紹介する。もちろん、その費用は飼い主負担。それだけ努力しても、どうしても無理だというのであれば引き取る。
という風にまずは飼い主にその責任を問う、ということを徹底し、「引き取ってください」と犬や猫を持ってきた飼い主に「はいはい、わかりましたー。」と簡単に応対することをやめた、とおっしゃっていました。
これ、本当に大切なことだと思います。一度でも一緒に生活していた犬や猫を捨てるなんて許せない行為ですが、センターに来る飼い主さんも思い悩んで切羽詰って来ている方も少なくないといいます。
私だって、文太が仔犬の頃、保健所に・・・と思ったことこそありませんが、「この先一体どうなるんだろう・・・」と、相当いろんな不安を抱えていました。
そこで、まず相談にのってあげるとか、話を聞いてあげる、それだけで心が軽くなって「もう一度がんばってみようかな。」って思う方も出てくると思うんです。(実際、そういう方もいらっしゃったから、飼い主返還率が大幅に上がったのかもしれません。)
それと、もうひとつ強く印象に残ったのが成犬の譲渡です。きちんとしつけが入っていれば仔犬に比べてよほど楽なので、成犬の場合は里親を探す前にきちんと社会性を養いトレーニングをしているそうです。
また、何か心配な点(これは私の考える例ですが、たとえば普段は大人しいのに雷が鳴ると狂乱する、とか、虐待を受けていたため棒のようなものを見ると攻撃的になる、とか。)は、里親さんにはきちんと話をして「こうしてください。」という注意点を最初にはっきり言われるそうです。
これも、里親を探すのにとてもとてもとても大切だと思うんです。「な~んにも問題のない、いい子ですよぉ。」とウソをつけば悪徳ショップと同じことだし、悪気はなくても犬の性格などを理解せずに「かわいそうな子なんです!助けてあげて!」と同情を誘い、誰彼構わず里親を探せば、何か問題があればすぐに戻ってきてしまう、ということになりかねません。(それの一番悪い例が、かつて話題になった『崖っぷち犬』だと思うんですよね・・・)
熊本市の殺処分ゼロに向けての取り組みの4つめは、迷い犬猫及び里親探しの犬猫をホームページ上に載せるということ。単純だけど、とても効果的だと思います。(現在、京都府の動物愛護管理センターHP上にはセンターにいる犬猫の写真はおろか情報が全く載っていません。)
最後のひとつは、飼育放棄がこれ以上なくなるように、小学校を対象に「ふれあい会」を行い「わんちゃんやねこちゃんを捨てない人になってね。」という教育をされているそうです。
また、現行の法律(動物の愛護及び管理に関す法律 第三十五条)に、「都道府県等は、犬又はねこの引取りをその所有者から求められたときは、これを引き取らなければならない。」と明記されているかぎり、それをたてに引き取れという人がいることに言及され、この条文の改正を強く主張されていました。
『殺処分ゼロ』と聞いても、私の心にもやっとしたものが残っていた理由は、「結局は犬猫の『リサイクル』がされているだけなんじゃ?」ということでした。
犬を引き取りました → 殺される前に里親が見つかりました → めでたし、めでたし!
っていうのはどうなのかなぁ・・・犬にとっての一番の幸せは、殺されなくてすむ、里親が見つかる、ということじゃなくて、元の飼い主さんと一生楽しく暮らすことじゃないの?というのがどうしても頭から抜けなかったんです。(それは今でもそうですが。)
だから、「あそこに持っていけば殺されなくてすむよ!」みたいなことになれば、逆に罪悪感もなくほいほい捨てられる犬や猫が増えたりしないんだろうか・・・とちょっと心配だったんです。(だからと言って、「全部殺してしまえ」ということでは決してないんですが。)
だから、所長さんの「本来の目標は、里親探しではなく飼い主の終生飼育なんです。」と力強くおっしゃっていた言葉に心の中で拍手喝采でした。
『もうこれ以上殺したくない』 単純だけどとても温かい、その気持ちひとつでそれを実行に移した人たちがおられるということ、他の自治体や行政もよく考え、お手本にしてほしいと心から願っております。
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すべての犬や猫たちが一生涯幸せに暮らせる社会になりますように。


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